Work: Portrait

ある日のポートレート撮影

シャッターを落とす

「カメラマンさん、おとしてくれ」と、モデルの髪をたっぷりいじり倒したあとクライアントである壮年期の美容師が言った。それまで熱意のこもった手さばきを眺めていた私は、デジタルカメラのファインダーに瞼をこすりつけシャッターをきる。シャッターをおとしはしない、小型軽量に務めたデジタルカメラだからシャッターが落ちるという感覚は当てはまらない。

それより以前によく、ペンタックス67というカメラで撮影していた。ミラーレス一眼より、デジタル一眼レフよりひと回り強も大きいカメラだ。ロールフィルムを使い、解像度の高い画像が手に入る。ひとコマのサイズは6cmx7cm。だからカメラ名に67とついている。カメラもデカいが内部にあるミラーが跳ね上がる衝撃もなかなかのものだ。しっかり締めた両脇はもちろん覗き窓に押し当てた眼窩でも衝撃を抑えなくてならない。油断していると簡単にブレるからだ。一眼レフはレンズから入った像を正確にファインダーから肉眼に送り伝える。ミラー(鏡)とプリズムを用いて像をレンズからファインダーへ送り、これを実現する。フィルムのコマのサイズが大きくなると、それに合わせてプリズムも大きく重くなり、ミラーも広く厚くなる。シャッターボタンをを押すたびにミラーの衝撃と共にガッシャと重い音がする。シャッタースピードによって衝撃音も変わる。1/500秒はガシャっと走るが、1/8秒などシャッタースピードが遅いとガッッシャァと這うように伝わる。

その美容師はどこで、ガッシャ(多分1/30秒)とミラーが落ちる感覚を得たのか、彼の長いであろうキャリアを考えるとそこまで不思議でもかもしれないが、それは印象的なやり取りだったし何故か爽快で、そしてペンタ67のミラーが跳ね上がり落ちる振動も今もしっかり残っている。

©ハレバレシャシン

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